2020.11.8
先日、とある仕事で丸3日ストリートピアノの隣で過ごす時間があった。
週末限定の小さなイベントだったけれど、どこからか噂を聞きつけてピアノの腕自慢をする方、通りすがりにエントリーした年配のマダム、発表会に向けた度胸試しの子ども、即興ピアノを楽しむ天才3歳児など様々な演奏者が次から次へとピアノを弾いた。
演奏者がまだ出揃わない午前中の隙間時間に私も何回かピアノを弾いた。
楽譜を持ってきてなかったので、弾けたのは小学2年生の時に発表会で弾いた「すみれ」、指が覚えているバッハのインベンション9番、サティのグノシェンヌ。
人の少ない空気の中、響き渡るピアノの音色が気持ち良かった。
ストリートピアノの演奏者たちは皆驚くほど上手で、一日中聴いても飽きなかった。
しかし「紅蓮華」を弾く人が圧倒的に多く、その後の帰宅道中もずっと紅蓮華の耳鳴り?幻聴?が続いたのはマイッタ。耳が疲れた。
先日ピアノの先生が言っていたように、全体的にクラシックよりもJ POPのアレンジ曲が多く、音量も大きかったり派手な曲が多かった。これは先生も嘆くはずだ。
そんな中、最終日の昼過ぎに来た一人の男性が弾き始めた瞬間、それが「パスピエ」だとすぐに分かった。私の大好きな曲。
昔買ったクラウディオ・アラウのドビュッシーのアルバムの中に収録されていた曲で、初めて聴いた14歳の私はすぐにその曲が好きになり楽譜を買ったけど、苦手な左手のスタッカートの連続に断念した曲。
男性はそんな曲をとても軽やかに最後まで一気に弾ききり、感動した私はつい話しかけてしまった。
「パスピエですよね?」
男性は控えめな印象の方で、「そうです。この曲好きなんです。」と言って私に目を合わせずに笑った。
アンケート用紙には30代とある。同い年くらいだろうか。
「独学ですか?」と聞けば
「いえ、習ってます。」とまた静かに笑って言った。
30代男性がピアノ教室に通いパスピエを弾いている、ということに私は再び感動した。
感動、というか希望、というか感謝というか。
とにかく嬉しくなって、心を優しくくすぐった。
そして私は今、もう一度14歳の頃に買った楽譜を開いている。
そう、パスピエにもう一度挑戦だ。
大学生の頃にピアノをやめてから14年ぶりに楽譜読みから始めている。
すると思っていた以上に指が動くことにも驚く。
時間はすごくかかったけれど、なんとか最後まで楽譜通りに弾くことができ、指も脳も久々にたくさん動かせてリフレッシュ!
あー楽しい。
一日中でも弾いていたい。
そんな日が欲しい。
ピアノを一日中弾ける日が欲しい。
ピアノを弾いている時は自分が自分でいられる時。
久しぶりのこの感覚。
ピアノの先生が言っていたことを思い出す。
演奏は自分自身の音楽療法。
音楽を奏でることで自分で自分を癒すことができるんですよ。と。
私の感覚はあの頃と何も変わっていないような気がする。
あの頃も、今も、私は自分のためにピアノを弾く。