2020.9.9

今日は朝から2時間だけ友人の事務所の仕事。
久しぶりに会うSさんが赤キャップを後ろ向きに被っている。
のんさんがBGMで最近お気に入りの「人間椅子」「平沢進」を流し続けてくれる。
平沢進の音楽はテクノポップ調で耳心地が良い。


のんさんとパソコン仕事を向き合ってするこの時間が好きだ。
ついつい話しかけてしまう。
私が最近気になっている若手俳優など、恥ずかしくて夫にも話せてないようなことも話してしまう。


のんさんは最近絵を描きたい衝動に駆られて一気に下絵を完成させたと言った。
出産後は子育てで忙しくしているけれど、元々アーティストなのんさん。
突拍子も無いその衝動をぶつけられるキャンバスがあることが羨ましい。
そしてその途絶えることの無いエネルギーが眩しい。


パソコンの画面から目を離さないまま、のんさんが「私の衝動についての話、聞いてくれる?」と言う。
もちろん!聞く聞く。


毎日、少しずつ何かがなくなっていく話。
自分の持ち物が少しずつなくなっていく。例えばお気に入りのワンピースが突然なくなる。
すると道ですれ違った人が自分のワンピースを着ている。
次の日も何かがなくなっている。知らない誰かがそれを我が物顔で身につけている。
次の日も次の日も。
そして最後は自分の体の一部もなくなり始めていく。


いいね、星新一みたいな世界観だね。と私は言った。
この物語をどうやって絵に落とし込むのか不思議に思った。
絵を描くことができない私には想像できない。
絵が描けることは世界が何倍も自由になる能力に思える。


アートと経済。
売るアート。お金を得るアート。
展覧会で見せるアート。
ネット販売やSNSに上げるアート。


答えのない生き方を探す。
でも一人じゃない。みんな探してる。
のんさんと話しているとそう思える瞬間がたくさんあって嬉しい。


2時間はあっという間。
この時間は仕事、というよりリフレッシュして頭と心に風を通す貴重なひととき。


のんさんが帰り際に「どうやって生きていこうね」と言った。

「のんさんでもそんなこと考えるんだね。」

「考えるよ」

そう言って2人で笑って別れた。

 

私もいつも考えていることだよ。

一緒だよ。
今までも、今も、そしてこれからもずっとそう考えているんだろうと思うよ。

 

今までの関係の中で、のんさんはそんな私の気持ちも分かってくれているような気もするけど、いつも言えないその言葉をなんだか今日はちゃんと伝えられたらよかったと後から思っていた。

私はいつも伝えるべきタイミングで言葉が出てこない。

笑ってるその数秒の間に心の中にある言葉をごまかしてしまっているのかもしれない。